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東京地方裁判所 平成4年(ワ)12140号 判決 1995年3月29日

原告 学校法人帝京大学

右代表者理事 冲永荘一

原告 学校法人冲永学園

右代表者理事 冲永荘一

右両名訴訟代理人弁護士 萩原平

同 後藤邦春

被告 株式会社毎日新聞社

右代表者代表取締役 小池唯夫

右訴訟代理人弁護士 豊泉貫太郎

同 岡野谷知広

主文

一  被告は、原告らに対し、各金二三〇万円及びこれに対する平成四年四月三〇日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告らのその余の請求をいずれも棄却する。

三  訴訟費用はこれを一〇分し、その九を原告らの負担とし、その余を被告の負担とする。

四  この判決は、第一項に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由

第一請求

一  被告は、原告学校法人帝京大学に対し、金一億一〇〇〇万円及びこれに対する平成四年四月三〇日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

二  被告は、原告学校法人冲永学園に対し、金五五〇〇万円及びこれに対する平成四年四月三〇日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

三  被告は、原告らに対し、別紙一記載のとおりの謝罪広告を、被告発行の毎日新聞及び英字新聞(マイニチ・デイリー・ニューズ)各朝刊全国版に、別紙二記載のとおりの条件でそれぞれ各二回掲載せよ。

第二事案の概要

本件は、被告が発行する毎日新聞、マイニチ・デイリー・ニューズ、FAX毎日に、原告学校法人冲永学園(以下「原告冲永学園」という。)の設置する帝京短期大学オランダ分校(以下「オランダ分校」という。)の教師ら大半が不法滞在等をしており、同分校の日本人学生が留学ビザなしで滞在していること、更に、オランダの帝京関連会社が頻繁に不動産取引をしていることなどを指摘する旨の記事が掲載されたことにつき、原告らが、右各記事により、その名誉、信用等の社会的地位、評価が著しく毀損されたとして、不法行為に基づき、被告に対し、原告学校法人帝京大学(以下「原告帝京大学」という。)につき一億一〇〇〇万円、原告冲永学園につき五五〇〇万円の損害賠償及び謝罪広告の掲載を求めた事案である。

一  争いのない事実(1(二)、2)及び証拠により容易に認定できる事実(1(一))

1  当事者

(一) 原告帝京大学は、教育基本法及び学校教育法に従い、学校教育を行うことを目的とする学校法人であり、帝京大学を始め、短期大学、高等学校その他各種の学校、施設を設置している(甲一、六四、原告ら代表者)。

原告冲永学園は、教育基本法及び学校教育法に従い、私立学校を設置することを目的とする学校法人であり、帝京短期大学を始め各種の学校を設置している。帝京短期大学オランダ分校は、オランダ王国(以下「オランダ」という。)おいて、同短期大学の生活科学科の食物栄養専攻中の国際コースに入学した学生が約一〇か月間学ぶため、平成三年四月に開校された施設である(甲一、六四、原告ら代表者)。

原告帝京大学の設置する各学校、原告冲永学園の設置する各学校その他の関連学校は、総合学園として、原告帝京大学を中心とするグループ(いわゆる「帝京大学グループ」)を構成している(甲一、六四、原告ら代表者)。

(二) 被告は、日刊新聞等の発行を目的とする株式会社であり、日刊新聞「毎日新聞」、英字日刊新聞「マイニチ・デイリー・ニューズ」、また、アメリカ合衆国に居住する者を対象としたファックス通信「FAX毎日」等を発行している。

2  本件新聞報道の経緯

(一) 被告は、平成四年四月二九日、同日付け毎日新聞朝刊一面に、トップ記事として、「教師ら大半、不法滞在」(白抜凸版)、「帝京短期大学オランダ分校」、「併設検診施設の医師四人も」との二段の横見出し及び「日本人学生留学ビザなし」との四段中見出しを付け、オランダにある帝京短期大学オランダ分校に勤務する教職員の大半及びこれに併設された検診施設である帝京メディカル・センターに勤務する医師全員が、無届けで不法滞在、不法労働しており、これにつきオランダ政府の雇用査察局が調査を開始したこと、右分校は、教育機関としてオランダ政府から正式承認されず、同分校の学生も全員滞在許可証なしで不法に滞在していること、帝京側がこれを組織的に行ったこと等、別紙三記載内容の記事(以下「本件記事一」という。)を掲載、同日、これを発行して全国に頒布した。

(二) 被告は、平成四年四月三〇日、同日付け毎日新聞朝刊二三面(社会面)に、「オランダの帝京関連会社」、「頻繁に不動産取引」、「税務当局、調査へ」の四段見出しを付け、帝京側の「非合法であるとするならば、当然国外退去になっているはず。」との発言に対して、オランダ政府の雇用査察局担当官が「オランダ内の不法滞在者の使う言い逃れに過ぎない。」と指摘し、「不正事実が確定すれば例外なく国外追放が発令される。」と警告したこと、オランダにおいて原告帝京大学がその関連会社を使って、頻繁に不動産取引をしており、しかも、オランダ税務当局がこれを調査する方針であるとしていること等、別紙四記載内容の記事(以下「本件記事二」という。)を掲載、同日、これを発行して全国に頒布した。

(三) 被告は、平成四年四月三〇日、同日付け英字日刊新聞「マイニチ・デイリー・ニューズ」朝刊一二面に、トップ記事として、「Teikyo students illegal, says Holland」との見出しのもとに、本件記事一とほぼ同じ内容を英文に翻訳した記事(以下「本件記事三」という。)を掲載、同日これを発行した。

(四) 被告は、平成四年五月一日、同日付け英字日刊新聞「マイニチ・デイリー・ニューズ」朝刊一二面に、「Teikyo officials making excuses, say Dutch」との見出しのもとに、本件記事二とほぼ同じ内容を英文に翻訳した記事(以下「本件記事四」という。)を掲載し、同日これを発行した。

(五) 被告は、平成四年四月三〇日、同日付けFAX毎日一面に、「帝京短大オランダ分校」、「教師ら大半、不法滞在」、「併設検診施設の医師らも」との見出しのもとに、本件記事一とほぼ同じ内容の記事(以下「本件記事五」という。)を掲載し、同日これを発行した。

(六) 本件記事一及び二は、いずれも、当時、被告の従業員でブリュッセル支局長であった谷口長世記者(以下「谷口」という。)が取材して執筆したものである。

二  原告らの主張

1(一)  本件記事一については、見出しにおいて、無限定で「教師ら大半」としているので、オランダ分校の教職員の大半が不法滞在しているとの印象を強く与えるものとなっており、これと本文とを併せ読むと、一般読者に対し、右分校は、オランダ政府が学校として認めない違法な教育施設であり、したがって、そこに勤務する教職員もそこで学ぶ学生もオランダに違法に入国し、かつ、不法に滞在、不法に労働しているものであって、これを右分校の母体である原告帝京大学が教育の名の下に組織的に遂行し、学校法人としてあるまじきことを平然と繰り返しているかのような印象を強く与えるものとなっている。

(二)  本件記事二については、帝京短期大学オランダ分校の教職員や帝京メディカル・センターの医師らが不法滞在、不法労働をしているとの事実が真実であることを前提とし、まもなく強制送還されかねないものであることを強く印象づけるものとなっており、右記事内容と併せ、原告らの関連会社がオランダ国内で頻繁に不動産取引を行い、税務当局による調査が行われることになるとの記事を掲載することにより、原告帝京大学がオランダ国に教育以外の目的で拠点を作っており、学校法人としてあるまじき行動をしているかのような印象を強く与えるものとなっている。

(三)  本件記事三は本件記事一の、本件記事四は本件記事二の英訳であり、また、本件記事五は本件記事一とほぼ同内容のものであるから、本件記事三及び五は本件記事一と、本件記事四は本件記事二と同様の印象を与えるものである。

2  本件各記事の掲載、頒布(以下「本件報道」ともいう。)は、原告帝京大学及び帝京短期大学オランダ分校を設置する原告冲永学園の各学校法人としての社会的地位、評価を失墜させ、原告らの名誉、信用を著しく毀損した。

被告従業員らは、本件各記事を新聞等に掲載し、報道すれば、原告らの名誉、信用を毀損することを知りながら、または、過失によりこれを知らないで、本件各記事を掲載、報道したものであるから、右各行為は、原告らに対する故意又は過失による不法行為に当たる。

3  原告らの損害とその回復方法

(一) 損害賠償

原告らは学校法人であり、海外教育施設における不法滞在、不法労働等の記事の掲載、報道により、イメージの低下を招くこと甚だしいものがあり、特に、本件記事一については、いわゆる「一面トップ記事」として扱われたことの影響は甚大なものがある上、海外に進出している原告らとしては、英字新聞にまで掲載、報道されたことにより、海外、外国人にまでイメージを低下させることになったものであり、被告は、これにより原告らの被った次のとおりの損害を賠償すべき義務がある。

(1)  原告帝京大学

i 財産的損害

<1> 学生数の減少による損害 四億四九七六万七五〇〇円(ただし、本訴においては右のうち六二七二万七八一一円を請求する。)

<2> 法務関係費

三七三万六〇一五円

<3> 出張旅費

一三〇四万二三二一円

<4> 通信費 四六万六一〇三円

<5> 諸雑費 二万七七五〇円

ii 無形損害 二〇〇〇万円

原告帝京大学の規模、組織、社会的地位、本件報道の影響の大きさ、本件報道による影響が海外に及んでいること等によれば、その社会的地位、評価の失墜の程度は測り知れないほど大きく、右損害を金銭に評価すると二〇〇〇万円が相当である。

iii 弁護士費用 一〇〇〇万円

以上請求額合計一億一〇〇〇万円

(2)  原告冲永学園

i 財産的損害

<1> 学生数の減少による損害 二億六五一七万一六〇〇円(ただし、本訴においては右のうち二九九四万四八六二円を請求する。)

<2> 出張旅費 一万五一八〇円

<3> 通信費 三万九九五八円

ii 無形損害 二〇〇〇万円

オランダ分校は、原告冲永学園の設置する学校であり、本件報道により、同原告の学校法人としての社会的地位、評価に対する重大な侵害を受けたものであり、その失墜の程度は測り知れないほど大きく、右損害を金銭に評価すると二〇〇〇万円が相当である。

iii 弁護士費用 五〇〇万円

以上請求額合計五五〇〇万円

(二) 謝罪広告の掲載

原告らの名誉を回復するために、被告発行の毎日新聞、英字新聞(マイニチ・デイリー・ニューズ)各朝刊全国版に、別紙一記載の謝罪広告を別紙二記載の要領で掲載する必要がある。

三  被告の主張

1  本件各記事は、我が国において相当数の学校施設、学生を擁する原告ら学校法人の活動、行動について報道したものであるから、公共の利害に関する事項につき、もっぱら公益を図る目的で報道したものである。

2  本件各記事の主要な部分は次のとおりであるところ、これらはいずれも真実であるから違法性が阻却される。

(一) オランダ分校がオランダ政府から学校として認められず、同分校の日本人学生に滞在許可証が発給されなかったこと

(二) オランダ分校の教職員、帝京メディカル・センターの医師が不法滞在をしていること

(三) オランダ分校の日本人学生の滞在に問題があること

(四) オランダ分校の教職員、帝京メディカル・センターの医師が不法労働をしていること

(五) 帝京関連会社がオランダにおいて頻繁に不動産取引をしており、税務当局が調査をする方針であること

3  仮に本件各記事が真実でないとしても、被告は、本件各記事の作成に関し、被告記者は十分な資料を収集し、かつ数多くの関係者を取材し、慎重に検討した上で記事を作成しており、各記事の内容を真実であると信じ、かつ、これを真実と信ずるについて相当の理由があるから、被告には過失がない。

四  争点

1  本件各記事は、原告らの名誉を毀損するか。

2  本件各記事は、公共の利害に関する事項であるか。また、もっぱら公益を図る目的に出たものであるか。

3  本件各記事は真実であるか。

4  本件各記事が真実でないとしても、被告には、本件各記事の内容が真実であると信ずるについて、相当の理由があるか。

5  原告らの損害とその回復方法

第三争点に対する判断

一  争点1(本件各記事は、原告らの名誉を毀損するか。)について

1  新聞記事等による名誉毀損の成否を判断するに当たっては、一般に、本文のほか、見出し等の内容、その大きさ及びそれらの配置等を総合的に勘案し、一般読者の普通の注意と読み方を基準とした場合に、当該記事から受ける印象によって名誉を毀損されたか否かを総合的に判断するのが相当である。

2  そこで、右の観点から本件各記事による名誉毀損の成否を検討する。

(一) 本件記事一

本件記事一の本文は、帝京短期大学及び帝京メディカル・センターがいずれも帝京大学の子会社であること、オランダ分校に勤務する教職員の大半及びこれに併設された検診施設である帝京メディカル・センターに勤務する医師全員が、無届けで不法滞在、不法労働しており、これにつきオランダ政府の雇用査察局が調査を開始したこと、右分校は、教育機関としてオランダ政府から正式承認されず、同分校の学生も全員滞在許可証なしで不法に滞在していること、帝京側が右学生を組織的に同国に送り込んだことになること等を内容としており、右内容に対して、「教師ら大半、不法滞在」(白抜凸版)、「帝京短期大学オランダ分校」、「併設検診施設の医師4人も」の二段の横見出し及び「日本人学生留学ビザなし」との四段中見出しが付けられている。

一般読者が右の内容及び見出しの記事を読んだ場合、本件記事一によって、オランダ分校は、オランダ政府が学校として認めない教育施設であり、そのため同分校の日本人学生に滞在許可証が発行されず、その滞在に問題がある上、同分校の教職員及び帝京メディカル・センターの医師が不法滞在、不法労働をしており、しかも原告らがこれらを放置していることから、いずれも原告らが学校法人として適切な対応をとっていないとの印象を受けるものと認められる。

ところで、原告らは、右学生も不法に滞在しているとの断定的な印象を与えると主張するが、日本人学生については、「留学ビザなし」との見出しのもとに、本文中に滞在許可証なしに留学生活を送った旨の記載があるのみであって、教職員、医師の不法滞在と関連付けた内容となっているものの、右不法滞在とは表現を異にした記載となっていることに鑑みれば、日本人学生の滞在が何らかの問題があるとの印象を受けることは認められるが、これを超えて不法滞在であると断定しているものとは認めることはできない。

(二) 本件記事二

本件記事二の本文は、本件記事一の教職員、医師の不法滞在等の記事に対し、帝京側が「非合法であるとするならば、当然国外退去になっているはず。」と発言したことにつき、オランダ政府の雇用査察局担当官が「オランダ内の不法滞在者の使う言い逃れに過ぎない。」と指摘し、「不正事実が確定すれば例外なく国外追放が発令される。」と警告したこと、オランダにおいて原告帝京大学がその関連会社を使って、頻繁に不動産取引をしており、しかも、オランダ税務当局がこれを調査する方針であるとしていること等を内容としており、右内容に対して、「オランダの帝京関連会社」、「頻繁に不動産取引」、「税務当局、調査へ」の四段見出しが付けられている。

右のとおり、本件記事二においては、不法滞在、不法労働により、教職員、医師がまもなく強制送還されかねないものであるという内容と帝京関連会社が頻繁な不動産取引を行っているという内容を一つの記事とすることで、一般読者が右の内容及び見出しの記事を読んだ場合、オランダ分校の教職員、帝京メディカル・センターの医師が不法滞在、不法労働をしている上に、原告帝京大学がその関連会社を通してオランダで教育以外の目的で頻繁に不動産取引を行っており、これに対して税務当局が調査を行う方針であるとの印象を受けるものと認められる。

(三) 本件記事三は本件記事一の、本件記事四は本件記事二の英訳であり、また、本件記事五は本件記事一とほぼ同内容のものであるから、本件記事三及び五は本件記事一と、本件記事四は本件記事二と同様の印象を与えるものと認められる。

(四) 以上のとおり、本件各記事を読んだ一般読者は、オランダ分校及び帝京メディカル・センターの適格性等について否定的評価を下すものと認められるから、本件各記事は、それぞれオランダ分校の設置主体である原告冲永学園及び帝京大学グループの母体である原告帝京大学の社会的評価を低下させるような事実を摘示したものというべきであり、したがって、本件各記事の日刊新聞、英字新聞等への掲載、頒布は、一般的には、学校法人である原告らの名誉を毀損するものと解するのが相当である。

二  争点2(公共の利害に関する事項であるか。また、もっぱら公益を図る目的に出たものであるか。)について

1  名誉毀損行為が、公共の利害に関する事実にかかり、もっぱら公益を図る目的に出た場合には、摘示された主要な事実が真実であることが証明されるかあるいは、右事実が真実であることが証明されなくとも、当該行為者においてその事実を真実と信ずるについて相当の理由があるときには、不法行為は成立しないと解するのが相当である。

2  本件各記事は、短期大学、高等学校、幼稚園等合計約二八〇〇名の在校生、二〇〇名余の教職員(いずれも平成五年一二月時点)を擁する原告冲永学園の設置する帝京短期大学のオランダにおける施設であるオランダ分校等の教職員、学生等に関する事項であり、右帝京短期大学は、原告帝京大学を中心とするいわゆる「帝京大学グループ」の一員であって、右帝京大学グループは、全体で在校生数四万九〇〇〇名余、教職員数八〇〇〇名余(いずれも平成五年一二月時点)を擁していること(甲六四、原告ら代表者)から、わが国の教育に大きな影響を与えるものであることに鑑みれば、本件各記事の記載の事実は公共の利害に関するものであると解するのが相当である。

3  また、公共の利害に関する事実の摘示がある本件各記事の掲載、頒布は、他に特段の事情がない限り、社会に生起する様々な事実を報道して国民の知る権利に奉仕する報道機関の役割に鑑みると、もっぱら公益を図る目的に出たものと解するのが相当であるところ、本件では、特段の事情に関する具体的な主張、立証がないから、本件各記事は、もっぱら公益を図る目的で掲載、頒布されたものと解される。

三  争点3(真実の証明)について

1  真実の証明は、報道の迅速性の要求と、客観的真実の把握の困難性から考えて、記事に掲載された事実の全てについて、細大もらさずその真実であることまでの証明を要するものではなく、その主要な部分において、これが真実であることの証明がなされれば足りると解するのが相当であり、名誉毀損の成否が一般読者に与える影響を基準として判断されることに照らし、主要な部分について真実の証明があったか否かも、一般読者に与える印象を基準として検討するのが相当である。

したがって、本件においては、前記一2(一)、(二)に照らし、<1>オランダ分校がオランダ政府から学校として認められず、同分校の日本人学生に滞在許可証が発給されなかったこと、<2>オランダ分校の教職員、帝京メディカル・センターの医師が不法滞在をしていること、<3>オランダ分校の日本人学生の滞在に問題があること、<4>右教職員、医師が不法労働をしていること、<5>原告帝京大学の関連会社がオランダにおいて頻繁な不動産取引を行い、税務当局が調査に入ったことがそれぞれその大要において真実であると認められることを要する。

2  証拠(甲一、一五、二〇、二二、二四ないし二七、三三、三五、三六、三七の二、四、五及び七、三八ないし四二、四六ないし四九、五一、五二、五四ないし五六、六〇、六二ないし六五、八二、八五ないし八八、乙一、二、四、五の一及び二、七ないし二七、三〇、五三、五四、五八の一、二、六〇の二及び三、六一ないし六三、六五ないし六九、証人谷口、同酒井、同土田、原告ら代表者)、前記争いのない事実等及び弁論の全趣旨を総合すれば、以下の事実が認められる。

(一)(1)  帝京短期大学オランダ分校は、原告冲永学園の設置する帝京短期大学のオランダにおける教育施設であり、生活科学科、食物栄養専攻国際コースの一学年生に一般教養と同時に国際感覚を身に付けさせることを目的として、平成三年四月、オランダ、リンブルグ州マーストリヒト市で開校され、財団法人帝京トラスト・ホーランドにより運営されているものである。初年度(平成三年度生)は、平成三年四月一七日から平成四年二月二〇日までの約一〇か月間、一一六名の帝京短期大学の女子学生(うち日本人一一三名、韓国人二名、中国人一名)が、第二年度(平成四年度生)は、同年四月一七日から平成五年二月一三日までの約一〇か月間、同短期大学の女子学生一三〇名が、さらに、平成五年四月一六日から第三年度(平成五年度生)の同短期大学の女子学生九六名が、それぞれオランダに滞在し、同分校で学習してきている(甲一、二四、三五、四〇、四一、五一、五二、六二、六四、証人酒井、原告ら代表者)。

右オランダ分校は、日本の文部省により認可を受けた教育機関である帝京短期大学の海外教育施設であり、オランダ政府からオランダの教育機関であるとの認可を受けているものではない(甲三六、三七の七、三八、乙二)。

(2)  帝京メディカル・センターは、オランダ等に在住する日本人に対する健康診断を行う施設であり、平成四年一月ころから検診が開始されている(争いがない)。

(3)  帝京ヨーロッパ社は、オランダにおける、不動産等の売買・所有・開発を目的とする株式を公開しない株式会社であり、ゴルフ場持株会社であるフンズハウスホールディング社(カイツ・ヨーロッパ社から、平成二年七月に社名変更)及びオランダ帝京メディカル・センター社の株式を所有しているとともに、オランダ分校の施設等の不動産の売買、管理を行っている(甲六二ないし六四、証人酒井、原告ら代表者)。

(二) ところで、オランダ法(「外国人法」及び「外国人政令」)上、一般的に、日本人がオランダに滞在する場合、滞在期間が三か月以内で、かつ、労働を行わない場合には、滞在許可証(査証ないしビザともいう。)は不要であるが、同国内で労働をする場合及び三か月以上滞在する目的で入国する場合には、特別な場合(「宗教や政治上の信念又は国籍の故、或いは特定の民族又は社会集団への帰属の故に、その入国拒否が直ちに訴追されると恐れるに足る深刻な理由のある国への移送を余儀なくされる」者(政治的難民、亡命者等))を除き、滞在許可証が必要となる。日本人が労働目的または三か月以上滞在する目的をもってオランダに入国する場合、入国前に、日本において在東京オランダ大使館領事部等に仮滞在許可を申請し、その発給を受けた上で、オランダ入国後八日以内に最寄りの警察署外国人課等に出頭し、滞在許可申請をして、右許可証の発行を受けることが必要である(甲二七、乙一五、一六、二六、六三)。なお、平成六年四月の法改正により、入国前に仮滞在許可を取得することは不要となり、入国後八日以内に最寄りの警察署外国人課に出頭し滞在許可証の発給を受けることのみで足りることとなった(甲八二)。

(三) オランダ分校の平成三、四年度生(以下「本件学生」という。)、教職員六名のうち本件報道当時既に滞在許可証及び雇用許可証を取得ずみの二名を除く四名(以下「本件教職員」という。)、帝京メディカル・センターの医師四名(以下「本件医師」という。)は、いずれもオランダ入国前に在東京オランダ大使館領事部に仮滞在許可申請をすることなく、仮滞在許可証なしにオランダに入国し、右入国後パスポートを市警察署外事課に提出し、「滞在許可申請」、「毎週の登録義務免除」との記載のなされたスタンプの捺印を受けた(甲二五、二六、五一、五二、五四、六二、六四、証人酒井、同谷口、原告ら代表者)。

本件学生(平成四年度生)、教職員、医師は、本件報道当時、いずれも滞在許可証の発給は受けていなかった(争いがない)。

(四) 平成三、四年度生は、いずれも滞在許可証なしに約一〇か月間同地に滞在して帰国しているところ、滞在許可証が発給されなかった理由については、オランダ教育科学省が、同国法務省のオランダ分校に対する要求を受けて、同分校に対し、平成四年三月、同分校は帝京短期大学の付属施設であり、日本の文部省により認められた教育機関であること及び帝京短期大学のシステムは日本の正規の教育の範囲内にあることを確認する旨の宣言をしたものの、同分校の学生に対する滞在許可証の発給は、同分校の教職員、帝京メディカル・センターの医師の滞在許可、雇用許可に影響を及ぼすことからなお関係省庁間で協議をする必要があったため、法務省の滞在許可決定が遅れ、滞在期間中にその発給が間に合わなかったためである。なお、平成五年度生は、日本において仮滞在許可を受け、オランダ入国後、平成五年七月一日、滞在許可証の発給を受けている(甲三六、三八、六四、乙一、二、一七ないし二〇、二二ないし二四、五三、証人土田、原告ら代表者)。

(五) オランダ法(「外国人被雇用者就労法」。乙二六の二)によれば、オランダにおいて外国人が就労するについては、雇用主が管轄大臣の許可なくして外国人を就労せしめることはこれを禁ずることとされており(争いがない)、日本人がオランダで就労するためには、オランダ政府がその就労を許可することを要し、雇用者が、雇用許可申請・待機中の期間に日本人被雇用者を稼働させ始めた場合には違法となるとされている(乙一、一二、六六)。

本件報道当時、オランダ分校に勤務していた日本人教職員は六名であり、右教職員のうち本件報道当時既に滞在許可証、雇用許可証取得ずみの二名を除く四名(本件教職員)及び帝京メディカル・センターで健診活動をしていた医師四名(本件医師)は、いずれも雇用許可証の発給は受けていなかった(争いがない)。なお、本件医師は、平成四年一月から検診活動を開始したが、雇用許可申請は、同年二月に提出している。また、平成四年五月に帰国した北原規医師を除く医師三名(苅部正巳、中里豊、川辺淳夫)については、同年九月に医療行為の許可がなされ(甲三九、四八、四九)、このうち苅部、中里医師については、平成五年九月に雇用許可証が発給された(甲五四、乙六五)。

(六)(1)  帝京グループの関連会社である帝京ヨーロッパ社は、オランダにおいて、平成二年一月、フリーク館を購入し、平成三年一一月、ホテル「ビュー・デ・モンターニュ」を購入した。同年四月、マーストリヒト市アナダル地区にある国立マーストリヒト大学付属病院跡地を旧病院建物とともに払下げを受けて取得するとともに、右ホテルを売却した。また、原告帝京大学を中心とする帝京大学グループのオランダ関連会社の一つであるカイツ・ヨーロッパ社(現フンズハウスホールディング社)は、平成元年一〇月、ゴルフ場を購入している(争いがない)。

(2)  帝京ヨーロッパ社は、オランダ分校校舎その他教育施設とするためにフリーク館を購入したが、右フリーク館の改修工事に対し文化財保護団体の反対があったことなどから、改修工事の実施を断念し、学生寮にすべくホテル「ビュー・デ・モンターニュ」を購入したところ、同年四月、国立マーストリヒト大学付属病院跡地を旧病院建物とともに払下げを受けて取得したため、不要となった右ホテルを売却し、右病院跡地購入資金に充てた(甲一五、二〇、二二、三七の二、四及び五、六二、六三、六四、証人酒井及び原告ら代表者。なお、右認定に反する証人谷口の証言は、右各証拠に照らし、信用することができない)。

3  そこで、右事実をもとに、前記の各主要部分が真実であるか否かについて検討する。

(一) オランダ分校がオランダ政府から学校として認められず、同分校の日本人学生に滞在許可証が発給されなかったこと

(1)  前記2(一)(1) によれば、オランダ分校は、オランダ政府から学校として認可されたものではないとの事実は真実であることを認めることができる。

(2)  しかしながら、オランダ分校の日本人学生(平成三、四年度生)がオランダ滞在中に滞在許可証を取得できなかった理由は、右2(四)のとおりであるから、右事実は、オランダ分校がオランダ政府から学校として認められないことを原因として学生の滞在許可証が発給されなかったという限りにおいては、表現として妥当ではなく、右事実を真実と認めることはできない。

(二) オランダ分校の教職員、帝京メディカル・センターの医師が不法滞在していること

(1)  前記事実によれば、本件教職員、医師は、仮滞在許可証を取得することなく、オランダに入国し、入国後滞在許可申請をしたのみで、滞在許可証なしに滞在していたものであるから、外国人法、外国人政令(乙二六の一)の明文に則っていないことは明らかである。

この点につき、外国人政令四六条によれば、短期滞在中に三か月を超える滞在を希望する場合、あるいは、就職を希望する場合等事情の変更があった場合には、入国後に滞在許可申請を行うことが可能であり、この場合には、滞在許可証発給(却下決定)があるまで合法的に滞在できることとなるとされているが、当初から就労目的を有している場合、あるいは、三か月を超える滞在目的を有して入国する者には右規定は適用がないと考えるのが相当であり、したがって、右の目的を有していながら仮滞在許可証なく入国した日本人が、入国後八日以内に滞在許可申請をした場合には、同法令上、右許可が下りるまで国内に滞在することが適法であるとまでいうことはできないと考えられる。

また、乙一によれば、オランダ政府が、本件教職員、医師は、法律上、滞在許可申請後、右許可についての決定を待つ間、オランダに残留する権利を持つ旨の議会答弁をしていることが認められるものの、右答弁内容は、外国人法の明文に照らし、入国後八日以内に滞在許可申請をしさえすれば直ちにその滞在が合法になるとまで認めたものであるとみることはできない。したがって、本件教職員、医師の滞在が合法であるとまではいえないと解するのが相当である。

(2)  しかしながら、オランダ分校は、リンブルグ州知事らの誘致もあってマーストリヒト市に開校したものであり、本件教職員、医師らについて、一旦入国が認められ、入国した後に滞在許可申請があった場合、特段の事情のない限り、不許可決定がされるまでは国外退去処分は実施されないものと考えるのが通常であること、右医師等については、国外退去処分がされることなく最終的には滞在許可証が発給されていること、オランダ法務省は、本件各報道後、本件教職員、医師の滞在について問題視する考えのないことを明らかにしていること(甲七、八)などに鑑みれば、本件教職員、医師の滞在につき、不法滞在とまで断定することは妥当性を欠き、事実としてはやや正確さを欠くものといわざるを得ない。

(三) オランダ分校の日本人学生の滞在に問題があること

(1)  本件学生については、前記事実のとおり、仮滞在許可証を取得することなく、オランダに入国し、入国後滞在許可申請をしたのみで、滞在許可証なしに滞在していたものであるから、本件学生が、留学ビザなし、あるいは、滞在許可証なしに留学生活を送ったとの事実自体は真実であることが認められる。

(2)  そこで、滞在許可証を取得することなく滞在していた点につき、オランダ法上問題があるか否かについて検討する。

甲二五、六七によれば、オランダ分校の平成三年度生については、法務省査証部長代理から、書面により、通常要求される書類なしに渡航することができ、有効なパスポートの提示以外は何も必要なく、入国後八日以内に、マーストリヒトの地区警察当局に自己の所在を報告しなければならない旨の通知がなされていることが認められるところ、右書面は、右学生に対し仮滞在許可申請手続を免除し、入国後滞在許可申請の上、滞在許可証を取得すれば足りることを認める趣旨であると解される。また、平成四年度生については、甲四〇、四二によれば、法務省外事管理局ベルグマン女史と帝京側(帝京ヨーロッパ社)顧問弁護士との平成四年四月初めころの話合いにおいて、前記と同様の方法による入国が許可されたこと及びマーストリヒト市から右学生のオランダ入国につき問題のないことを保証する全ての手続きがされていることを確認する旨の通知がなされていることが認められる。本件学生は、いずれも、右通知に基づき、オランダに入国後八日以内に滞在許可申請手続をしているから、仮滞在許可証なしに入国したことは何ら違法ではないということができる。

被告は、甲二五の文書の発信後である平成三年四月二三日に、甲二五の署名者である法務省査証部長代理を含むオランダ政府と帝京側との間で行われた協議において、日本人学生については、入国前に仮滞在許可を申請し、その発給を待つ必要があり、右仮滞在許可取得期間を短縮するよう取り進めることが合意されていること(甲二七)、その他オランダ政府が滞在許可証発給をすみやかに決定しなかったことなどに鑑みれば、甲二五の仮滞在申請の免除を認める旨の文書はオランダ政府としての正式な見解を表したものということはできないと主張するが、仮滞在許可申請を免除することは、特別の措置であって、正規の(明文上の)手続の改善策を更に協議することは当然であること、平成四年度生については、法務長官がリンブルグ州知事に対し「滞在許可申請に対する決定を見越し、学生たちはオランダで学問を追求することを認められます。」と明言していること(甲四六)、オランダ法務省は、本件各報道後、右学生の滞在について問題視する考えのないことを明らかにしていること(甲七、八)に照らせば、甲二五がオランダ政府の正式な見解によるものでないということは相当でない。

ところで、前述のとおり、仮滞在許可証を取得した上でオランダに入国し、入国後八日以内に滞在許可申請をした場合には、右決定がなされるまでの間は、滞在することを許されているとみるのが相当である。そうすると、本件学生は、仮滞在許可証を取得することなく入国しているものの、オランダ政府の仮滞在許可申請免除により、仮滞在許可証を取得した場合と同視できるから、その後、オランダ政府による滞在許可の決定が遅れていたとしても、本件学生の右滞在をもって違法とまではいうことはできない。

(3)  したがって、オランダ分校はオランダ政府の認可した学校ではないから、そもそも「留学ビザ」は必要とされないのであって、ことさらこれを強調したうえで、教職員、医師らの「不法滞在」との見出し及び本文と関連付け、学生の滞在に問題があるとの印象を与える本件記載内容は、相当性を欠き、その限りにおいて、真実と認めることはできない。

(四) オランダ分校の教職員、帝京メディカル・センターの医師が不法労働をしていること

(1)  前記三2(五)の事実に加え、甲一四、八五、乙一、五の一及び二、一二、二一、六〇の四、六二によれば、社会雇用省から、オランダ分校教職員、帝京メディカル・センター医師、帝京ヨーロッパ社員合計八名につき、雇用許可なしに就労させたことに対する勧告を受け、平成四年一〇月ころ、罰金に相当する金員を支払って起訴を免れたことが認められること(証人土田、原告ら代表者は、右金員を支払ったのは、社会雇用省から雇用許可申請なしに就労させたことを指摘され、雇用許可証発給をスムーズにするため和解金として支払ったものであり、何ら違法性のあるものではなく、仮に違法性があったとしても、雇用許可申請をせずに就労させたことについてのものであるというが、前掲各証拠に照らし信用することができない。)を併せ考えると、本件教職員、医師は、雇用許可なく就労していたものと認めることができるから、右就労行為は、外国人被雇用者就労法に違反する不法労働であることを認めることができる。

(2)  原告らは、オランダ政府は雇用許可申請をすれば、許可決定のされる前であっても就労を認める運用をしており、本件は違法でないと主張するが、これに沿う証人酒井、同土田の各証言及び原告ら代表者本人尋問の結果は、具体性を欠き、右認定を左右するに足りるものではない。よって、原告らの右主張は採用することができない。

(3)  以上によれば、右の事実は概ね真実であるということができる。

(五) 原告帝京大学関連会社がオランダにおいて頻繁な不動産取引を行い、税務当局が調査に入ったこと

(1)  前記2(六)によれば、帝京ヨーロッパ社が、本件記事二本文の記載のとおり、数件の不動産取引を行っていたこと自体は真実であるということができるが、同社が購入、売却した不動産の取引は対象としては数件であり、しかも、ゴルフ場を除き、いずれも、オランダ分校の施設等を確保するためのものであって、帝京ヨーロッパ社の経営内容に不審な点があったことを窺わせるものではなく、これをもって、頻繁な不動産取引というのは相当ではない。

(2)  次に、税務当局の調査について検討するに、谷口は、オランダ大蔵省及び税務捜査関係者に直接取材していることに加え、本件報道後、税務当局から帝京ヨーロッパ社に対して本件不動産取引に関する問い合わせがあったこと(原告ら代表者)、本件報道後である平成三年一月に発行された現地新聞(乙一四)においても、「当初、帝京は何百万ものギルダーを巻き込む数件の不動産取引で注目を集めた。」旨の報道がなされていることなどに鑑みれば、税務当局担当官が帝京ヨーロッパ社の不動産取引に何らかの関心を持っていたことが窺われる。しかしながら、他方、右不動産取引のうち、マーストリヒト市内旧国立病院施設の買受けは、国有財産の払下げであって、税務当局の調査を問題にするまでもないこと、証人谷口の証言中、オランダ大蔵省及び税務捜査関係者が税務調査を行うとの発言をしたとする証言部分については具体性を欠いているうえ、その証言の大部分は、オランダ分校が消費税について教育分野課税免除の適用を受けるか否かの観点からの調査に終始していることに照らすと、右認定事実をもって、右不動産取引につき税務当局において税務調査が行われる方針であるとの事実が真実であったと推認することはできず、他にこれを認めるに足りる証拠はない。

(3)  以上によれば、右各事実のうち、原告帝京大学の関連会社である帝京ヨーロッパ社等による不動産取引自体については、概ね真実であるということができるが、不動産取引が頻繁に行われており、このため税務当局の調査が行われる方針であるとする限りにおいて、真実であると認めることはできず、したがって、右記載は正確性を欠いたものというべきである。

四  争点4(真実と信ずる相当な理由の存在)について

1  前記三(争点3)で検討したとおり、被告は、<1>オランダ分校の日本人学生に滞在許可証が発給されていなかったこと、<2>オランダ分校の教職員、帝京メディカル・センターの医師が不法滞在していること、<3>オランダ分校の日本人学生の滞在に問題があること、<4>オランダの帝京関連会社により不動産取引が頻繁に行われており、税務調査が行われる方針であることについて、不正確な報道をしたものであるところ、被告が右事実を真実であると信じたことは、前記認定の諸事実から推認するのに十分である。そこで、被告がこれを真実と信ずる相当な理由があった否かについて検討する。

2(一)  証人谷口の証言及び弁論の全趣旨によれば、谷口は、昭和五六年六月に被告の通信員として取材活動を開始し、平成三年六月からは被告の正式社員となり、被告ブリュッセル支局長としてベルギーを中心にオランダを含むベネルクス三国の取材活動等に従事していたこと、谷口は、オランダにおいて、平成四年三月にオランダ分校、帝京メディカル・センターに関する記事がオランダ国内の新聞に掲載されたことから関心を持ち、同月下旬から取材を開始し、四月下旬までの間に、マーストリヒト市警察外国人課、オランダ社会雇用省、雇用査察局、法務省、公共雇用局、教育科学省、税務当局、国立病院長、帝京ヨーロッパ社長その他の同社関係者、現地不動産関係者、商工会議所、レムアント市登記所等に対する取材を行い、本件記事一及び二を執筆したことが認められる。

(二)  右事実によれば、谷口が、前記1<1>ないし<4>の事実につき、一応の取材活動を行った上で、本件各記事を執筆したことが認められる。

しかしながら、証人酒井の証言及び同人作成の陳述書(甲六二)によれば、谷口は、平成四年四月二七日に、帝京ヨーロッパ社長である右酒井に対して本件に関する取材をしているが、本件学生、教職員、医師の滞在につき、滞在許可証が発給されていないことを確認したのみで、右滞在についてのオランダ分校とオランダ政府とのやり取りに関しては一切質問していないことが認められるところ、右のような質問をしていれば、オランダ分校、帝京ヨーロッパ社が、本件学生、教職員、医師の滞在に関して交渉をしていたオランダ政府、リンブルグ州政府の担当者等が判明し、これらの者に対する取材を行うことができたものであって、更に、右担当者等に対する取材をすれば、オランダ法の明文に合致しているとはいえないものの、その経緯に鑑みれば、本件教職員、医師の滞在が、必ずしも不法とまで断定すべきものではなかったこと、本件学生の入国が合法的であり、滞在許可決定が遅れていたとしても、その滞在自体に問題があるわけではなかったことなどが判明したと認められる。また、帝京ヨーロッパ社等帝京関連会社に対する税務調査については、谷口証言においても、税務当局に対して具体的にどのような取材をしたのか明らかではなく、他に右事実を裏付ける十分な資料が存在することを認めるに足りる証拠はない。

したがって、本件報道に際しては、本件学生、教職員、医師に対する滞在許可の決定に当たり、オランダ政府部内で種々の議論があることを報道することはともかく、オランダ分校の教職員や帝京メディカル・センターの医師らが不法滞在しており、同分校の学生の滞在に問題があること並びに原告帝京大学関連会社が頻繁に不動産取引を行い、税務当局が調査に入ったことについて、断定した表現を用いたことは相当でなかったというべきであるから、本件<1>ないし<4>の事実を真実と信じたとしても、軽率の誹りを拭うことができず、したがって、真実と信じたことについて相当の理由があったと認めることはできない。

3  本件各記事の掲載及び頒布は被告の被用者が業務の執行につき行ったことは明らかである。よって、被告は、これにより原告らの被った損害を賠償する責任がある。

五  争点5(原告らの損害とその回復方法)について

1  財産的損害

(一) 原告らの学生数の減少による損害

(1)  証拠(甲六四、六八、原告ら代表者)によれば、平成四年度から平成五年度にかけて、帝京大学グループの大学、短期大学等の学生数は増加しているが、これはもっぱら国内の志願者の増加によるものであり、同グループ海外校の平成五年度入学生総数は前年に比較して減少していること、帝京短期大学オランダ分校の受験者数については、平成五年度は前年度に比べ減少しており、入学者数も前年比三五名減の九六名と大幅に減少し、平成六年度の入学者数は更に減少して七四名となっていることが認められる。

(2)  しかしながら、他方、右グループ海外校の入学者数の推移を見ると、平成四年度に比べ平成五年度に増加している学校もあること(甲六八)、海外校への入学のための費用は、国内の場合と比較して相当高額となること、平成五年度は私立大学の受験者数が全体として減少していること(乙五一、五二)に照らすと、(1) の事実のみからでは、本件各記事の報道と原告らの学生数減少との間に相当因果関係を認めることはできず、他にこれを認めるに足りる証拠はない。

(二) 法務関係費、出張旅費、通信費及び諸雑費

証拠(甲六八、七一の三ないし五、七二の一及び二、七三の一ないし四、七四の一ないし九、七五の一ないし六、七六、七七の一及び二、七八の一ないし四、七九、八〇の一ないし四、八一の一ないし四、原告ら代表者)及び弁論の全趣旨によれば、原告らが、原告ら主張の各出費をしたことが認められる。

しかしながら、前掲各証拠及び弁論の全趣旨によれば、原告らとしては、本来、オランダ分校、帝京メディカル・センターの学生、教職員、医師らが、オランダに滞在、就労するに当たり、当初から、その滞在、就労に法律上問題がないかどうか予め調査をしておく必要があり、事前に調査を尽くしていれば、かかる多額の出費を要しなかったものと認められるところ、原告ら主張の右出費は、事後的にこうした調査に要した必要経費ともいうことができ、これと本件の独自の調査費との区別が定かでなく、いまだ本件不法行為との間の相当因果関係を認めるに足りない。他にこれを認めるに足りる十分な証拠はない。

2  無形損害

被告の発行する毎日新聞は、その発行部数は、朝刊全国版が公称四〇〇万部であること、英字新聞であるマイニチ・デイリー・ニューズの発行部数は五万部であること、アメリカ合衆国向けにファックス通信されるFAX毎日の発行部数は五〇〇部であること(以上については当事者間に争いがない)、特に、本件記事一については、毎日新聞全国版朝刊にいわゆる「一面トップ記事」として扱われたこと、しかしながら、本件各記事中には、真実である部分も含まれており、本件報道において、その真実性が立証されず、また、真実と信ずるについて相当な理由の存在も認められなかった事項は、前記のとおり、見出し及び記事において教職員及び医師らの不法滞在、日本人学生の滞在の問題性及び原告帝京大学関連会社が頻繁な不動産取引を行い税務当局の調査が入ったことに関するものであり、その不法性を読者に印象付ける記述において断定的な表現方法を用いた点にあるところ、これらの点、その他本件に現れた諸般の事情を総合勘案すると、原告らの受けた無形損害の賠償としては、それぞれ二〇〇万円が相当である。

3  弁護士費用

原告らが、本件訴訟手続を原告ら訴訟代理人らに委任し、手数料及び報酬の支払を約したことは、甲六八、七〇及び弁論の全趣旨から明らかであるところ、本件事案の性質に鑑みると、訴訟手続を弁護士に委任することが相当な事案であると認められ、審理の経過、認容額その他諸般の事情に照らすと、被告の本件行為と相当因果関係のある弁護士費用の額は、それぞれ三〇万円とするのが相当である。

4  謝罪広告

原告らは、謝罪広告の掲載を求めているところ、前記諸事情に鑑みれば、原告らの社会的評価の低下による損害を回復するための措置としては、右無形損害に対する損害賠償請求を認めるをもって足り、これに加えて謝罪広告の掲載を命ずる必要はないというべきである。

5  なお、不法行為に基づく損害賠償債務は、なんらの催告を要することなく、損害の発生と同時に遅滞に陥るものと解するのが相当であるところ、本件各記事のうち、本件記事四は同年五月一日に報道されているものの、本件各報道は一連の内容に基づくものであること、右報道の主要部分である本件記事一及び二は、同年四月二九、三〇日に報道されていること、同年五月一日に報道された本件記事四は、右記事二の英訳に過ぎないことに鑑みれば、本件不法行為の主要な部分は同年四月三〇日までに行われており、原告らの損害も右同日までに発生しているものと認められる。したがって、右不法行為による損害賠償債務は、右同日までには遅滞に陥っているものと解するのが相当である。

第四結論

以上によれば、原告らの本訴請求は、被告に対し、各金二三〇万円及びこれに対する不法行為の日である平成四年四月三〇日から支払ずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金を求める限度において理由があるからこれを認容し、その余は理由がないからいずれも棄却し、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 河野信夫 裁判官 舘内比佐志 裁判官 田中一彦)

別紙一 謝罪広告

当社は、平成四年四月二九日付け毎日新聞朝刊及び同月三〇日付け毎日新聞朝刊において、「帝京短期大学オランダ分校 教師ら大半、不法滞在 併設検診施設の医師4人も 日本人学生留学ビザなし」及び「オランダの帝京関連会社 頻繁に不動産取引 税務当局、調査へ」の見出しで、また、平成四年四月三〇日付け英字新聞マイニチ・デイリー・ニューズ朝刊において、「テイキョウスチューデンツイリーガルセズホーランド」の見出しで、また同年五月一日付け英字新聞マイニチ・デイリー・ニューズ朝刊において、「テイキョウオフィシャルズメイキングイクスキューズセイダッチ」の見出しで、帝京短期大学オランダキャンパスの教職員の大半及び帝京メディカル・センターの医師らが不法滞在をしており、かつ、帝京短期大学オランダキャンパスが教育施設ではなく、オランダ政府が承認もしないようなものであり、これに入学している日本人学生も不法に滞在しているとの一方的な記事を掲載し、また、学校法人帝京大学が関連会社を使って不動産業を頻繁に行い、教育以外の目的でオランダ国に拠点を作っており、税部当局もこれを問題視して調査に入ったなどの印象を与える記事を掲載しました。

右記事は、全く事実に反するものであり、いきすぎがありました。これにより、学校法人帝京大学及び学校法人冲永学園の名誉、信用等の社会的地位・評価を著しく毀損しました。ここに全面的に右記事を取り消し、謝罪します。

なお、記事にするに当たっては、取材が適切十分になされなかった点があったことは、誠に恥ずべきことであり、今後二度とこのような軽率な記事を掲載・報道することはしないことをお誓いします。また、右記事を掲載するに当たっても何らのチェックも機能しなかったことを今後の教訓として、肝に命じ、二度とこのような謝った報道をしませんので、お許しを頂きたく心よりお詫び申し上げます。

平成 年 月 日

株式会社 毎日新聞社

右代表者代表取締役 小池唯夫

東京都板橋区加賀二丁目一一番一号

学校法人帝京大学

右代表者理事 冲永荘一殿

東京都渋谷区本町六丁目三一番一号

学校法人冲永学園

右代表者理事 冲永荘一殿

別紙二 掲載条件

1 掲載日掲載場所等

(1) 初日一回目は、一面

(2) 二日目二回目は、社会面

2 掲載スペース

天地七段、左右三分の一(一二・八センチメートル)のスペース

3 字格等

見出し部分は、三倍ゴチック活字

本文(被告名、被告代表者名、年月日を含む。)は、二倍ゴチック活字

見出し部分及び本文を二分子持罫囲みとする。

4 その他

(1) 英字新聞に掲載するときは、別紙一の謝罪広告文を英文に翻訳して掲載する。

(2) 被告の代表者が交代したときは、本謝罪広告を掲載する時点の代表者名に変え、かつ、掲載年月日を記入する。

別紙三、四<省略>

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